漆と食事

公開日 2023年2月3日

さて、漆は何か、というと漆の樹液です。

漆の木に引っ掻き傷を入れると樹液が出ます。
漆搔きと呼ばれる職人さんが、
毎年6月ごろから10月ごろまでかけて、
一本の木から牛乳瓶1本ぐらい、200cc以上を採っていきます。

1人の職人さんは一年で200本以上を採るということですので、
一升瓶20本ぐらいの量です。
それを「ろくろ師」が削った木地に、「塗師(ぬし)」と呼ばれる塗る専門の職人さんが漆を塗っていきます。

安比川の話に戻すと、ろくろ師さんの前に、木を倒す「木こり」、
その木を丸太から、狂いを少なくするために木から水分を飛ばして、ある程度の形にカットする「荒型屋」もいます。
塗師のところには、「商う人」が買取に来て、市に持っていくという感じでしょうか。


▲安代漆器工房は、八幡平市博物館の前に建っています。
八幡平市博物館には、安代町時代の歴史、安比川沿の暮らしがわかる資料が、立体的に展示されています。

 
 
 

意外なことですが、「安比塗ってどんな漆器?」でお話を聞いた、
浄法寺を復活させた岩舘隆さん(昭和29 /1954年生)も、
安比塗を生んだ冨士原文隆さん(昭和31 /1956年生)も、
冠婚葬祭の時の時は使ったけれど、普段は、漆を使わなかったという意外な答えが返ってきました。

高度経済成長期と呼ばれる期間が1955年-1973年と言われますから、
お二人の成長期と被ります。

ですから、この二人のレジェンドも、
作り出してから漆器の良さが解っていった、ということ。
今から漆を使う皆様も、遅くはないです!

漆器といえば、汁椀、と作り手は皆言います。
(が、冨士原さんは幼少期、味噌汁は瀬戸物で飲んでいたそうです)。
和食では味噌汁にスプーンは使いません。
椀を持ち、口をつけていただきます。
もし、これが陶磁器だと、熱々の味噌汁だったら、碗は持てないでしょう。
唇も火傷するかもしれません。
漆器は温度を緩和させ、かつ口をつける部分も柔らかなカーブで触感もいい。

最初の漆はまず、汁物をおすすめします。

そして、安比川流域でよく使われ、今も、古道具屋でも見られるのが「こびる皿」という、
5寸(直径15センチほど)のお皿です。
農作業の際に、ザクザクっとカゴに入れて、持っていき、
漬物やおむすびなどの取り皿として使っていたそうです。
漆の皿、使い慣れると食事の度に必ず使いたくなるほど、
食事の映りが良いのです。


▲こびる皿。こちらは、今後、ご紹介する、伝統食の伝道師 佐藤ひとみさんのお宅にて。
後ろ側左のものは、佐藤さんのお宅にあった昔のこびる皿。他は、安比塗漆器工房の小昼皿。側面からのラインがとても美しいです。

 
 
 

「最初の一つとして、何を使おうか」と、

悩まれている方にちょっとした予備知識です。

安比塗の顔とも言える、3.8寸汁椀。
元々、この椀。冨士原文隆さんが、
安比塗の誕生の前の研修時代、
地元で使われていた3つ椀のサイズを調べ尽くし、
平均値を出してデザインしたもの。

底をひっくり返すと、高台の部分が弧を描いていますが、
このカーブ。

業界では「桃尻」と呼ばれ、3つ椀の汁椀の多くがこの形だったそうです。

そういえば、桃が描かれている片口が安比塗のマークです。

どぶろくがまだ自由に各家庭で作っていた時代、
片口はどぶろくを飲むのに欠かせず、各家庭にあったものです。
(蛇足ですが、冨士原さんは、片口の木地作りの名手と言われた藤村金作さんの元で働いている際に、
木地を作っているなら、木に漆を塗れる様にならねば、という流れになって、盛岡の試験場で塗りの勉強を始めたそうです)

安比塗の一番の新作の<小昼皿>。
先に出てきた<こびる皿>をイメージして作られたものです。

団子でも漬物でも、おむすびでも、デザートでも。
使い始めると、本当に使いやすいのです。

 
「でも、漆をどう扱ったらいいか解らない」という方も多いと思います。

 
次回はその説明。
そして、その次は、地元で伝統食を作り伝える活動をしている、
佐藤ひとみさん訪問記をお伝えいたします。

漆を使いたくなること、間違いなしです。


▲安代町史より。荒屋新町・荒沢には漆椀がトレードマークになるほどの財産だった。
 
 
 
special thanks 八幡平市博物館

■文責 日野明子
■写真 minokamo(長尾明子)

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